「はい、喜んで!」
「ビールッ追加〜〜。」
「はい喜んで!!」

俺は今、某居酒屋でバイトをしている。
親元を離れて、一人暮らし。人生経験の一環として送り出された。
バイトの無い時は、実家の中華飯店の手伝いに行くので、あんまり親元を離れてるという気はしない。
・・・でも、やっぱ、大学から帰って誰もいないと少し寂しいかな。

「はい!喜んで〜〜〜!!」

この居酒屋特有のこの返事にも、だいぶ慣れてきた。
今じゃ、日常生活中にも自然と出て来る始末。
職業病だ。絶対。
でも、これはこれで楽しいから、まあ、いいや。と思ってる。
おっと、団体客が呼んでるぜ!

「ねぎまちょうだい〜」
「はい喜んで!」
「俺、つくね。」
「はい、喜んで!」
「あと、ちまきとカルパッチョとシーザーサラダとライムサワー」
「ハイ!ヨロコンデ!」
「あ、カニ!かに!ズワイガニ!!と、ジンジャーエール!!」
「はいっ!!ヨロコンデ!!」
「結婚しよう。金剛。」
「はい!喜んで!」
「この皿、持ってって。」
「はい!喜んで〜〜・・・・・・・・・・ん?」

今、一瞬、不思議な言葉を聞いたような気がする・・・。
手元の走り書きしたメモを確認の為に読み上げる。
「ねぎま、つくね、ちまき、カルパッチョ、シーザーッサラダにライムサワー。
あと、ズワイガ二とジンジャーエールに、ケッコンシヨウコンゴウ・・・。」

結婚しよう。金剛。

ようやく脳内で漢字に変換されて、驚いて、そこに座ってる客を見る。
顔も知らない男女に混じって、一人、見覚えのある顔がある。
俺を金剛と呼ぶやつは、あいつらしかいない。
ましてこんな事を口にするやつは一人しか・・・。
「しかと返事は貰ったぞ。金剛。」
「ら・・・、螺呪羅〜〜〜!?」
にやりと口の端を上げて笑ったその顔は、紛れも無く天敵とも言える幻魔将螺呪羅その人だった。
なんで、こいつがここにいるんだ!
「おまっ、何し・・・」
「秀!・・お客様、失礼しました。ただ今料理をお持ちします。」
あやうく螺呪羅に掴みかかろうとした俺を慌てて店長が止めてそのテーブルから引き剥がされた。
裏で、思い切り大目玉を食らった。
ちきしょう、あいつのせいだ!!
誰だ、あいつにここ教えたのは!?
ちきしょう、ちきしょう、とんでもない事になっちまった。
『結婚しよう。金剛。』
『はい。喜んで。』
どこのカップルの会話だよ。俺は、つっこみを入れつつ頭を抱える。
この居酒屋の返事の仕方が悪いんだ!
絶対、あいつ、鬼の首をとったようにつきまとってくるぞ。
どうしよう・・・、でも、返事しちまったしなぁ・・・。

「秀!」
店長が呼んでる。
とりあえず、バイトに復帰しないといけない。
ちらと見ると、あいつの姿はもう無かった。
ほっとしつつも、憂鬱になる。どうせ、俺の部屋の前で待ってんだろうなぁ・・・。
「ねえ、秀君、顔赤いよ?熱あんじゃない?」
先輩に心配された。
赤い?俺が?まさか。

「ビール追加〜〜〜。」
俺はやけくそになって叫んだ。

「はい!喜んで〜〜〜!!」


終わり。

本当は、お絵描き掲示板で描こうと思ったんだけど、時間かかりそうだったので小説に。
・・・でも、かかる時間は一緒くらいかも・・・。むむ。
ラジさん、幸せ計画発動。

『居酒屋で』