「あ。」
除夜の鐘を叩き終えて帰ってきた悪奴弥守が最初に会ったのは螺呪羅だった。
会ったというか、帰ってくるのを待っていたようでドテラを着込みつつも寒そうに震えている。
「何してんだお前?」
「あけましておめでとうございます。」
「へ?あ、おめでとう・・?」
よもや新年の挨拶をする為に待っていたわけでもあるまいに・・、と思っていたら相手が本題を口にし
た。
「お年玉、いくらだ?」
「は?」
俺から欲しいのか?
「金に困ってんのか?女遊びも大概にしろよ?」
「・・・?ち、違うわ!カユラにいくら渡すのかと聞いとるんだ!」
「あ・・・、ああ!」
忘れてた。
「お前も忘れてたのか・・・。那唖挫も忘れてたんだよな。あいつの場合、気付いても慌てもしてなかっ
たが。」
「で、いくら渡すんだ?」
「渡すって言ってもなぁ・・・。今これしかないし・・・。」
と、財布の紐を解き中を見せてみると、螺呪羅はちょっと驚いてからにやりと笑いやがった。
「なら、俺が貸そう。実は朱天や那唖挫とも話し合って皆同じ金額を渡そうという事になったんだ。見栄
はって大金を渡さないようにな。」
と、袂からすでに袋に入ったお金を渡された。準備万端だ。
こいつ、俺に金が無いって決め付けてやがったな。
「礼は?」
「・・ありがとな。」
「よしよし。膨れ面なのは気になるがいいだろう。今年もお互いいい年にしよう。」
「ああ、そうだな。じゃ、そろそろ寝るから。」
部屋に帰ろうとしたら、ぐっと腕を引かれて、耳元で螺呪羅が囁いてきた。
「もう寝るのか?なら俺と姫初めといこうか?」

『ガッ!!』

殴り初め。

翌朝。
5人で初日の出をみたあと、誰からともなくカユラにお年玉を渡し始めた。
「まあ!ありがとうございます!」
嬉しそうなカユラ。よかった。
来年はちゃんと自分の金であげよう。なんとなく皆で和やかに談笑する。
落ち着いた良い年になりそうだ。と思っていたら、さっさと中を確認していたカユラがちょっと慌てた声で、
「螺呪羅殿、こんなにいただけません!」
は?
「気にするなカユラ殿。ほんの気持ちだ。」
しゃあしゃあとそんな事を口にする螺呪羅の両脇に那唖挫と朱天が張り付いて何か囁いている。
だんだん声が荒くなりにやにやと笑った螺呪羅に盛大に文句を言っている。
あいつらも策にはまったのか。
「どうしたんでしょうかあの方々は?」
「さあね。喧嘩するほど仲がいいっていうし、いいんじゃねぇの?」
なにせ、金を借りた身分の俺は何も言えないさ。

「ああ、今日もいい天気だな。」
「そうですわね。今年も良い年になりそう。」
この喧騒の中そう言えるあんたは大物になれるよ。


終わり



お正月ネタでひとつ。
妖邪界での通貨は何になるんだろう?

『正月』