『事の始まり』(原口×斑目)


「春日部さんだっけ?彼女。かわいいよね。」
事の始まりはこの一言だった。


部室で一人、誰か来ないかと本を読んでいたら、原口が「よう」と声をかけながら入ってきて、悪
い事など考えてないとでも言いたげな笑顔でそう語りかけてきた。

「そうっすか?」
「うん。かわいいよ。いいよね、ああいうタイプ。」
彼が何を考えているのかまったくわからないわけではない。だが、それを顔に出せばつけいる隙を
与えるだけだとわかっている。

入会してすぐに自分がまったく逆らえないタイプだと認識しているので、なるべく関わらないよう
に受け流すように受け答えをするようにしてきた。それでも目をつけられて散々な目にあってきた
のだが、次第に彼のほうから現視研に顔を出さなくなって平穏が訪れて安心していた。

しかし、最近またちょこちょこ顔を出し始めて、不安に駆られていたところへ先ほどの台詞だ。
彼女が、狙われている。

「春日部さんなら、高坂と付き合ってますよ?」
慌てて、しかし顔に出さないように牽制してみる。
「ああ、そうみたいだね。」
さらりと返された。
「でも、かわいいよね。斑目もそう思うだろう?」
同意を求められても困る。本音を漏らしたりしたらそれこそまずいし、反論するのもおかしな話だ

適当な相槌を返していると、彼特有の笑顔がすぐそばまで近寄ってきて囁いた。
「ちょっとくらいなら味見しても構わないよね。」
「!?」
あまりのことに、手に持っていた本を落としてしまった。こいつならやりかねない。そう思うと慌
ててしまい、一度唾をぐびりと飲み込んでから、

「いや、さすがにそれは構うと・・・」
汗が顔中を流れて首を伝って体まで落ちていくのを、まさしく肌で感じながらどぎまぎと反論して
みる。いや、反論しようとして途中で言葉を飲み込んだ。

彼の目が、俺の体を舐めるように見ていたからだ。
「そう?なんなら君でがまんしてあげるよ。」
「・・・は?」言葉が出ない。
「会員の身の安全を考えるのも会長の仕事だろう?」
そうだろうか?いや、そこまでは会長云々はあまり関係ないような気がするのだが。でも、ここで
逆らったら本当に春日部さんにこいつの毒牙がかかりそうで何も答えることができずに悲しいかな
、情けないことに考えすぎてすっかり硬直してしまった。

「こういうのも久し振りだろう。」
にたにたと笑いながら原口は、俺の2倍はあると思われる指を首筋にあてがい、蛇に睨まれた蛙の
ように動けずにいる俺の口に自分の唇を重ねてくる。

そのまま延々と咥内を舌で弄られ、飲み込みきれずに口の端から溢れ出た唾液が首筋に流れてくる
のを体が感じる頃には体の芯の方が、忘れようとしていた快感を思い出していて、熱く、熱くなっ
ていた。

そんな自分の体の反応に戸惑い、必死になって原口を振りほどく。
「やめ・・・やめてください・・・・」
弱々しい自分の声に泣けてくる。
「いいよ。」あっさりとした声。「斑目が嫌ならやめよう。」
思いがけない言葉に、ついまじまじと相手の顔を見る。
「しょせん斑目は、代わりだからね。」

本当に、泣きたくなってきた。

「ん?何?その顔は。言いたいことははっきり言ってくれないとわからないよ。」
促されるままに答えさせられる。
「俺を」
消え入りそうな声で言う。
「抱いてください。」
満足げな顔で原口はうんうんとうなずき、それが当たり前というように「いいよ。」と答えた。

                                         <終わり>(2005/12/05)